私たちの生活に欠かせないアルミニウム。その軽さと強度から、自動車部品、建材、電子機器などに幅広く使用されています。しかし、「電力の塊」とも呼ばれるアルミニウムは、製造時に莫大な電力を消費し、大量のCO2を排出する問題があります。この問題を解決する新たな選択肢として、「グリーンアルミ」が世界的な注目を集めています。
本コラムでは、「グリーンアルミ」がどのようなものか、中小製造業のみなさまが知っておくべきことについて解説します。
グリーンアルミは、水力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを使用して製造されたアルミニウムです。CO2排出量を2分の1から3分の1に抑えることができるため、環境負荷が小さいという特徴があります。品質面においては、従来のアルミニウムと同等の強度と性能を持っているため、製品への影響を心配する必要はありません。注目すべきは、その環境価値にあります。
グリーンアルミへの移行が加速する背景には、主に2つの要因があります。
1つ目は、2026年から欧州連合(EU)が導入する国境炭素調整措置(CBAM)の影響です。この制度により、環境負荷の高い製品には実質的な関税が課されることになり、日本企業にとっても低炭素素材への転換は避けられない課題となっています。
2つ目は、多くのグローバル企業が脱炭素目標を掲げており、その達成に向けてグリーンアルミの調達の確保を急いでいることです。日本は国内でアルミニウムの精錬を行っておらず、全量を輸入に依存しているという特徴があります。そのため、グリーンアルミの調達においても海外市場の動向に大きく影響を受けることになります。
国際アルミニウム協会によると、2023年時点でのアルミニウム精錬における再生可能エネルギー使用比率は39%にとどまっており、需要の伸びに供給が追いつかない状況が続いています。
(出典:国際アルミニウム協会(IAI)のデータをもとに作成)
中小企業にとって、グリーンアルミへの対応は確かにコスト増要因となりますが、むしろビジネスチャンスと捉えることができます。先進的な企業では、環境配慮型製品としての価値を訴求し、適切な価格転嫁を実現している例も出てきています。また、グリーンアルミを前面に出した商品展開により、付加価値の創出に成功している事例も見られます。
今後、サプライチェーン全体での脱炭素化要請は一層強まることが予想されます。中小製造業としては、以下のような段階的なアプローチが有効でしょう。
まずは、主要取引先の動向調査や自社での導入可能性の検討から始めることが重要です。その際、製造工程や調達方法の見直しだけでなく、製品の付加価値向上策についても併せて検討することをお勧めします。
また、グリーンアルミの調達コストは従来品より高くなることから、価格転嫁の方針についても早期に検討を始める必要があります。環境配慮型製品としての価値を顧客に丁寧に説明し、理解を得ていく取り組みも重要となってくるでしょう。
とあるアルミ押出製品の中小製造業者では、同業他社に先駆けてグリーンアルミを活用した製品の製造に着手しました。その取り組みをホームページで公表したところ、アルミのサスティナブルな取り組みに関心を持つ企業からの問い合わせが10倍に増加したそうです。また、多くの閲覧者が集まった結果、検索エンジンでの表示順位も上昇し、企業認知度の向上という副次的な効果も得られたとのことでした。
製造業では長年、品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)の「QCD」が製品価値を測る重要な指標とされてきました。しかし今、この価値軸は大きな変革期を迎えています。新たにカーボン(Carbon)という環境価値が加わり、「QCDC」という新たな評価軸が形成されつつあります。
グリーンアルミの台頭は、まさにこの価値観の転換を象徴する出来事と言えるでしょう。従来の品質やコストの観点だけでなく、製品のカーボンフットプリントが、その価値を左右する時代となっています。
この変化は、中小製造業にとって新たな課題である一方、差別化と成長の機会でもあります。環境価値を含めた新しい製品価値の創造に向けて、今こそ一歩を踏み出す時期に来ているのではないでしょうか。
複雑なCO2排出量の計算を、
簡易的に行う診断ツールです。
詳細なモニタリング診断も行う
サービスも用意しています。
面倒な入力なしで最短30秒!
詳細を送ってCO2排出量を可視化