最近、中小製造業のみなさまに、取引先の大企業からEU炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)への協力依頼が届き始めています。特に鉄鋼やアルミニウム製品の製造業者にたいして、CO2排出量の情報提供のお願いが増えています。本コラムでは、EU炭素国境調整メカニズムの概要と、実際の依頼内容について解説いたします。
EU炭素国境調整メカニズムとは、「欧州域外から輸入される製品に対して、CO2排出量に応じて課金する制度」です。これは、製品の製造過程で発生した二酸化炭素の量を計算し、その排出量に応じて費用を課す仕組みです。欧州は域内企業に厳しい環境規制を課しており、域外からの輸入品にも同様の基準を適用することで、公平な競争環境の実現を目指しています。
対象製品は、セメント、肥料、鉄鋼、アルミニウム、水素、電力を使用して製造された製品です。特に鉄鋼製品については、ボルトやナットなどの部品も対象となっており、多くの中小製造業のみなさまに関係する可能性があります。
現在は移行期間(2023年10月~2025年末)につき金銭的負担はありませんが、輸入事業者によるCO2排出量の報告が始まっています。2026年1月からの本格実施後は、実際の支払いが発生します。
(出展:EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)解説(基礎編)(日本貿易振興機構(ジェトロ))
なお、本制度には厳格な罰則規定が定められています。例えば、賦課金を納付しなかった輸入事業者にたいしてCO2排出量トン当たり100ユーロ、CO2排出量などの報告をしなかった輸入事業者にたいしてCO2排出量トン当たり300~500ユーロの罰金が科せられます。小口取引への分割など意図的な規制回避も監視しており、そうした行為も罰則の対象となります。
大企業から実際にあった依頼内容を要約すると、以下のとおりです。
欧州が導入するEU炭素国境調整メカニズムにより、2026年1月から炭素排出量に応じた課金の支払いが義務化されます。現在は移行期間であり、3ヶ月ごとにCO2排出量などを報告しています。こうした中、欧州当局より2024年10月末報告分から実際のCO2排出量を算定し報告することが求められています。これに対応するため、鉄鋼およびアルミニウム製品を納めていただいている協力企業のみなさまに、年間CO2排出量と年間鋼材使用量を教えていただきたいです。
欧州向け製品のサプライチェーンに関わる中小製造業は、取引先から年間CO2排出量と年間鋼材使用量の情報提供を求められることになります。これに応えるためには、中小製造業では年間CO2排出量の測定体制の構築や、年間鋼材使用量の正確な記録システムの整備、情報提供の要請に迅速に対応できる体制づくりが必要となります。
また、今後は対象製品に化学品やプラスチックを加えることが検討されており、これらの分野の中小製造業も今から準備を始めることをお勧めします。
EU炭素国境調整メカニズムへの対応は、欧州市場へのアクセスを維持するための必須条件となります。適切な対応ができない企業は取引から除外される可能性がある一方、迅速な対応は新規取引獲得のチャンスにもなり得ます。
実際に、大企業の中には、環境対応力の高い取引先を優先的に選定する動きも出始めています。中小企業にとっては、これまでの取引関係に関係なく、新たなビジネスチャンスを掴める可能性が広がっているとも言えます。
環境規制は今後さらに厳格化が予想され、その対象範囲も広がっていくことが考えられます。この機会を前向きに捉え、自社の環境対応力を高めることで、持続可能な企業成長につなげていきましょう。
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